あの頃…
「連れて歩くなんて指導医らしいじゃないか」

どういう心境の変化だ

「別に。任された仕事をしてるだけだ」

「へえ」

面白いものを見た、と笑う荒井を放っておいて

「立花」

視線をしるふに移す

呼ばれて近づけば手に持っていた塊を渡される

「結紮の練習台だ。ここにあるから暇な時にでも練習しとけ」

海斗の手元にあるのは、白い発泡スチロールに何本かの糸が結び付けられたもの

外科結びを練習するものだったようだ

「そのうち抜き打ちでタイム測るから」

さっそくやってみようと手をかけていたしるふの頭上から海斗の容赦のない言葉が響く

「…はい」

顔が見えないことをいいことに思いっきり鬼と口だけでつぶやく

「容赦がないな。黒崎も」

会話を聞いていた荒井が再び笑う

笑いながら再びソファに横になるのを冷めた視線で見つめる

「忘れられないうちに医局に戻れよ」

そう言い残して去っていく海斗とその後を追うしるふに

「ちゃんと育てよ、お気に入り」

と声がかかる

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