赤い結い紐
「そんなことって……」

信じられないとでもいうように首を振り、千珠は黙り込む。

「ひとつずつ、穴の開いたポケットから中身が落ちるように記憶が落ちていって、

だんだん顔が思い出せなくなって、

気がついたら涙が出なくなってたよ」

そのときわかったんだ。

ああ、涙も涸れるんだなってさ……」

そう告げる武の瞳からは涙が流れていなくても、

間違いなく心からは流れているように千珠には見えた。
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