赤い結い紐
そして訊いてもいないのにジンは語り始めた。

「いいか、武。女の子っていうものはな……」

それでも今日みたいにはっきり、「行くな」と口にしたのは初めてだった。

寂しそうな目で見つめられることぐらいはあったのだが……。

そうこう頭をめぐらせているうちに、お店の前に着いていた。

由加里が武を見つけて、片手をあげて何かを飲むまねをした。

そう、今日は洋服のお礼に二人にお酒をおごることになっていたのだ。

千珠が奥からかばんを持って出てくるところを見ると、どうやらちょういいタイミングだったらしい。

由加里も千珠からかばんを受け取って外に出てきた。

「おっ、偉いね。ちゃんとおごりに来てくれたんだ」

由加里が言った。

「ああ、約束だからな」

武がにこりともせずに答えると、シャッターを閉め終えた千珠が、

「行こう」と言って微笑んだ。

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