赤い結い紐
千珠はいつもの定食屋に行こうと駅の方に歩きかけて思い直し、反対側のカフェに向かうことにした。

今朝、駅の前で出会った男の人のことが気にはなっていたのだけど、いざ会うことになると少し怖い気がしたからだ。

それでも、あの時の悲しそうな瞳が頭の中にこびりついて離れないのも確かだった。

「ただのナンパにしては大袈裟だよね」

呟いて、道端に転がっていた小さな石ころをミュールのつま先で蹴飛ばす。

いびつな形をした石は斜めにコロコロと転がって、停めてある自転車の車輪に当たり動かなくなった。

見にいってみようかな。

動かなくなった石と同じように立ち止まり、来た道を引き返すと駅の方に小走りに向かった。

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