炭酸水にダイブ


どうしようもない苛々を抱えながら、もう一度目を閉じた。ピリピリと僅かに感じる目の奥の痛みを追い出すように大きく息を吐く。この短時間で一体いくつの溜息が空中に溶けて行っただろう。数えるのも馬鹿らしい。

眠れないだけで、なんだと言うのだ。

こんなことに振り回されているという事実がどうしようもなく鬱陶しい。



ぐるぐると頭を巡る苛立ちに、ぎゅっと眉間を寄せた、その時。


静寂を切り裂くように、電子音が鳴り響いた。


「……っ!」


反射的に携帯電話を手に取り、発信元を確認して通話ボタンを押した。急に耳元で響いた音に驚いた心臓がうるさい。


『もしもし?』


ばくばくと忙しない心臓とは反対に、ゆったりと届くのんきな声に息を吐き出す。こちらは予想外の出来事に心臓が壊れてしまいそうだというのに、なんて勝手な男だ。


「……あのねえ、びっくりするじゃないの」

何時だと思ってるの、言外にそう非難すれば、どうせ寝てなかったくせに、見通したような答えが返ってきた。……むかつく。


「いつもはこんな時間にかけて来ないじゃない」

『いや、また眠れずにいるんじゃないかと思って』


ぐ……、と声が詰まる。事実だった故に咄嗟に返す言葉も思いつかない。


なにそれ、私がそんなにわかりやすいって言うの?

この男はいつもこうだ。なんでもかんでもお見通しとでも言いたげに、私の様子を言い当ててくる。それが無駄に得意げであるから、なんとなく認めるのが癪なのである。


『正解?』

「……さあ、どうかしら?」


そうして、海の向こう側、約11000キロメートル先で笑う男に正解を告げてやったことはない。

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