Bloom ─ブルーム─
大樹先輩にもらったありったけのFRISKを、そこで口に含み。

痛いほどの冷たさを感じて後悔した。

その冷たさはやがて、心と頭と全身を巡って、たどり着くのはやっぱり虚しさという場所でしかなくて。

そして、トイレから美容室に予約を入れたんだ。

夏休み中、大樹先輩を見つけたのはその日だけだった──……。




夏休み明け初日、だいぶ癒えたはずの傷に安心していたんだけど。

気づくと、無意識に先輩の姿を探してる自分に自分で驚いた。

今流行りのドラマで同じような状況の主人公がいて。

そういうのを、“未練がましい”というんだって、ドラマの感想交えて偉そうに直人が教えてくれた。

未練がましさを知った、夏。

目を閉じて、窓から入り込む風に身を任せるのが、唯一の癒し。

短くなった髪の隙間を縫って、頭皮にまで届く風が気持ちいい。

すーっ。

風を吸い込むと、友里亜が寂しそうに言った。

「また、見送るまで帰らないの?」

そう。

私は、大樹先輩と鉢合わすのを恐れてる。

「……うん」

帰宅時間をわざとずらして、大樹先輩が自転車に乗って去っていくのを見届けてから教室を出るんだ。

休み明けから大樹先輩を見つけたのは何度もあるけど、実際に会ってはいない。

“未練がましさ”が意外にも役立った私は、誰よりも先に先輩の姿を見つけ出し、気づかれる前に方向転換して身を隠してるから。

だって、今さら合わす顔なんてどこにもないもん。

あ。でも、1度だけ、見つかったかもしれない。

先週の、始業式の翌々日。

体育授業の前に。
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