弁護士先生と恋する事務員


そろそろ昼休みが終わる時間。


私と安城先生は事務所へ戻る事にした。


安城先生ってすごく憎たらしい事も言うけれど

ワイワイ言い合っているうちにいつのまにか気が晴れていた。


やっぱり、案外いい人なのかもしれないな。


商店街の通りに出ると、ちょうど道路を挟んで向かい側の歩道に

並んで歩く剣淵先生と芹沢先生が見えた。


(――っ!)


芹沢先生は剣淵先生と腕を組むような形で手をまわしている。


(…やっぱり、つきあってるのかな、あの二人)


どぉーーーん、と一気に気分が沈む。


「おおー、ぐいぐい来るねえ、芹沢先生は。」


楽しそうに安城先生はそう言うと、


「さっきの俺の言葉、証明してみせようか?」


そう言って、おもむろに私の頭をナデナデしてみせた。


(??)


「な、何してるんですか?いきなり。」


「がんばれがんばれ、ムッツリ地味女。」


安城先生は、変な掛け声をかけながら私の頭をよしよしと撫で続けている。


「剣淵先生の顔、見て。ほら、すんげームカついてるだろ。」


「えっ?」


道路の向こう側にいる剣淵先生は、確かに私たちを見て

『ムカッ!』って顔をしている。


「ほらね。脈ありだと思わない?」


「そんな……。」


だって、自分は芹沢先生と腕組んじゃってるくせに?


それにこの前だって剣淵先生の気のあるそぶりでその気になっちゃって撃沈したばかりじゃない。


「き、気のせいですよ。もう私に期待させるような事言わないでください。

ふられた時、立ち直れなくなっちゃいます…。」


「…そー?じゃあ言わないけどさ。」



その時、先生と視線が合った。


なぜかすぐに逸らすことができなくて、じっと見つめあう。


剣淵先生の瞳は、愁いを帯びていてなんだか切なげに見える。


そんな顔されたら、また勘違いしてしまいそう――



(芹沢さんとは、どんな関係なんですか)



(そんな素敵な人がいるのに、どうして気を持たせるようなことするんですか)




先生は残酷だ―――


 
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