弁護士先生と恋する事務員
「縁側っていいですよね。
私もよく、縁側で日向ぼっこしたり、お昼寝したり、蟻の行列を眺めたりしていました。」
「詩織らしいな。」
クックック、と可笑しそうに先生は笑いをかみ殺している。
「夜は縁側に座ってビール飲むっつーのもオツだな。」
「ああ、月や星空が見えて素敵でしょうね。」
「昼は庭でブチを洗ってやったりブラッシングしたりできるしなあ。」
「うんうん、わあ、どんどん素敵に思えてきました。」
「そうか、じゃあお前も引っ越してこい。」
「え!」
驚く私の手を握って、先生は言った。
「まあ、とりあえずだ。新築するなら、お前の理想もいろいろあるだろうし、これからゆっくり考えていけばいい。」
「………」
「詩織…」
先生は真摯な声で私の名前を呼ぶと、熱い目で私を見つめながら言った。
「約束する。お前と一緒に過ごす時間を、この先ずっと、大事にする。だから――」
先生は私の左手をゆっくりと持ち上げて
薬指の付け根に、にそっとキスを落した。
「一緒に暮らそう。この先ずっと、俺と一緒に――」
―――サワサワサワ。
川沿いの草や木が、涼やかな風を受けて葉ずれの音を立てている。
先生の言葉が嬉しくて、
先生の唇に触れられた薬指が熱くて
私はただ、コクコクと頷くだけで精一杯だった。
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女好きで惚れっぽい。
「俺は女好きじゃねえぞ。人が好きなんだ。」
熱血でマイペース。
「惚れっぽくもねえし。コイツ、と決めたらその女、一筋だ。」
手を繋ぎながら歩く帰り道。
先生は私の誤った認識を正していく。
だけどこれだけは間違っていない。
自分の正しいと思った道を、迷いながらもまっすぐに歩いている。
太陽のような笑顔で、周りの人たちを温かく照らしている。
私が昔もこれからも、ずっと想い続けていく人。
それが、うちのセンセイ。
*『うちのセンセイ』/おしまい*
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最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
炭/酸/水