弁護士先生と恋する事務員


「縁側っていいですよね。

私もよく、縁側で日向ぼっこしたり、お昼寝したり、蟻の行列を眺めたりしていました。」


「詩織らしいな。」


クックック、と可笑しそうに先生は笑いをかみ殺している。


「夜は縁側に座ってビール飲むっつーのもオツだな。」


「ああ、月や星空が見えて素敵でしょうね。」


「昼は庭でブチを洗ってやったりブラッシングしたりできるしなあ。」


「うんうん、わあ、どんどん素敵に思えてきました。」


「そうか、じゃあお前も引っ越してこい。」


「え!」


驚く私の手を握って、先生は言った。


「まあ、とりあえずだ。新築するなら、お前の理想もいろいろあるだろうし、これからゆっくり考えていけばいい。」


「………」


「詩織…」


先生は真摯な声で私の名前を呼ぶと、熱い目で私を見つめながら言った。



「約束する。お前と一緒に過ごす時間を、この先ずっと、大事にする。だから――」



先生は私の左手をゆっくりと持ち上げて


薬指の付け根に、にそっとキスを落した。



「一緒に暮らそう。この先ずっと、俺と一緒に――」



―――サワサワサワ。

川沿いの草や木が、涼やかな風を受けて葉ずれの音を立てている。



先生の言葉が嬉しくて、


先生の唇に触れられた薬指が熱くて


私はただ、コクコクと頷くだけで精一杯だった。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


女好きで惚れっぽい。


「俺は女好きじゃねえぞ。人が好きなんだ。」


熱血でマイペース。


「惚れっぽくもねえし。コイツ、と決めたらその女、一筋だ。」



手を繋ぎながら歩く帰り道。

先生は私の誤った認識を正していく。



だけどこれだけは間違っていない。


自分の正しいと思った道を、迷いながらもまっすぐに歩いている。


太陽のような笑顔で、周りの人たちを温かく照らしている。


私が昔もこれからも、ずっと想い続けていく人。





それが、うちのセンセイ。





*『うちのセンセイ』/おしまい*

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炭/酸/水
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