弁護士先生と恋する事務員

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午後7時30分。


「それじゃあ、お先に失礼します。」


バタン。


業務が終わり安城先生が事務所を出て行った後、私もすぐに後を追った。

暮れかける、今日最後の夕陽がピンク色に空を染めてとてもきれいだ。


(安城先生の自宅へ行くにはこの交差点を左に曲がる、でも通り過ぎて行くということは…)


やった!一日目にして収穫がありそうだ。

気づかれないようにつかず離れず、安城先生の背中を追い続ける。


商店街を抜け、住宅街を抜け、少し歩くと路面電車が走る大きな通りへ出る。

そこは、私たちの事務所がある下町よりは都会、街中よりは田舎という感じ。


(電車に乗っちゃうのかな、それともこの辺で待ち合わせ?)


通りを歩いていた安城先生は、あるビルの前でスッと消えた。


(あのビルに入った!)


私も早速潜入開始。


そこは大きめな二階建のビル。

一階には大規模な本屋とカフェが合体したような空間がある。

つまり本を選び買った後、カフェスペースでゆっくり読書ができるという感じらしい。

安城先生は真っ直ぐにカフェスペースへと向かった。

だだっ広い空間を仕切るために置いてある、パーテーション用の観葉植物に隠れながら、様子をうかがう。


「祐介!」


カウンターに座っていた女の人が嬉しそうに立ち上がり、先生に手を振った。

二十代後半、ストレートロングの髪、はっきりした顔立ちのその人にも、私は見おぼえがあった。


(やっぱり…)


その人はストーカー被害の事で、つい最近まで事務所に相談に来ていた女の人。

剣淵先生にヒトメボレしたとかでついこの前まで猛烈に電話攻撃して来たのに―――

にこやかにほほ笑んで手を振り返し、女の人の隣に座った安城先生は、ごく自然な動作で女性の腰に手をまわしている。

それはもう、親密な関係と言って間違いないだろう。


(剣淵先生といい感じになりそうだった女の人がもう三人も…… これは偶然なんかじゃない)


あいつの本性を知っているのは、たぶん私だけだ。

だったら私がこの手で、あいつの悪だくみを暴いてやるんだから!!
 
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