弁護士先生と恋する事務員


コトコト煮込む事、数十分。

少しずらした蓋の隙間から、ホカホカとした湯気が立ち上る。


(できた…)


忍び足でリビングを抜け、そっと寝室の様子をうかがうと

熱が上がってきて寝苦しいのか、先生はベッドで寝がえりをうっていた。


「具合、どうですか?お粥できましたけど、今食べられますか。」

「いや、もう少し後で…」

「それじゃあ水分摂って汗を出しましょうか。」


私は冷蔵庫から経口補水液を持ってきてベッドの横で先生に飲ませた。


少し体を起してゴクゴクと勢いよく飲み込むたびに、先生の喉仏が上下に動く。

喉が渇いていたんだろう、一気にペットボトル一本を飲みほした。


「ああ、だいぶん楽になった。お前がいてくれて助かったよ。」


先生は再びベッドに横になると、
さっきより穏やかな顔つきで、ふう、と深く息を吐いた。


「それにしても、よくここに来れたな。この辺は道が複雑だから、初めて来る奴はたいてい迷うんだよ。」

「ああ、安城先生が送ってくれたんですよ。」

「安城が?」


先生はピクリと眉根を寄せて聞き返した。


「はい、ちょうど出かけるついでだからって車で送ってくれたんです。」

「…そうか……」


先生は一旦言葉を区切って、何か考えるように目を泳がせた後、続けた。


「…あいつ、お前がここに来るの、いいって言ったんだ。」

「はい、心配だろうから行ってやれって。安城先生って、思ったよりずっと優しい所があるんですよね。」

「―――っ、……ふうん、ずいぶん余裕なんだな」


先生の声色が険しくなったような気がして、顔を覗き込んだ。


「どうしましたか、また熱が上がってきた?私タオル取り替えて――――


……きゃっ―――!?」



突然景色が変わって


一体何が起こったのか理解できなかった。



とても強い力で腕を掴まれ


次の瞬間、私はベッドへと倒れこんでいた。



「な……に……!?」



視界が半転して、私を見下ろす先生の顔と、その後ろには寝室の天井が映っている。



先生に腕を引かれ、ベッドに倒されたのだと気がついたのは


数秒経ってからだった。



「先生……!?」



先生は私の顔の横に両手をついて、


今まで見たことがないくらい、怖い顔で私を見下ろしていた。

 
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