たなごころ―[Berry's版(改)]
25.小悪魔な彼女
「箕浪さん、どうしたんですか!?」

 箕浪の顔を前にした笑実は、問わずにはいられなかった。
 わにぶち2階にある事務所のソファーに、箕浪は居た。不機嫌な表情を顕に。笑実が訪れたにも拘らず、身体を起こそうともせずに。向かいには、何か事情を知っているのだろう。喜多が笑いを堪えるように、唇を固く結び座っていた。その喜多と、軽い挨拶を交わしてから、笑実は再び箕浪の顔を覗き込む。
 箕浪の口元には、昨日まではなかった傷と痣があった。笑実は思わず、そこに指先を伸ばす。触れた瞬間、箕浪の眉間に皺が寄った。同時に、眉を下げた笑実が口を開く。

「手当てしないと……」
「こんな傷、たいしたことない」

 言葉だけを投げ寄こし、箕浪は笑実に背中を向けるよう寝返りを打った。拗ねた子供のような態度である。困惑する笑実に、喜多が助け舟を出した。眸を細めて。

「猪俣さん、放っておけばいいよ。親父さんを説得できなくて、凹んでるだけだ」
「親父さんって……会長のことですよね」
「そう。今日、その親父さんに会って殴られたんだよ。大丈夫、箕浪だってすぐに上手く行くと思ってないはずだから。猪俣さんに構って欲しくて拗ねてるふりをしているだけだ」
「えっと……」

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