シュガーレスキス

1-3 迷い

 毎日聡彦の事を思う。
 毎日彼との子供の事を思う。

 どうしたら彼にこの事を告げられるだろう。
 それとも一人で決断すべきなのか。

 タイミングが悪いにしても、あまりにもひどい現実だ。
 記憶を失った彼に「あなたの子供を宿したので」なんて、どうやって言い出していいのか分からない。
 自分だって記憶の無い男性が「君と愛し合っていた」なんて突然言われても、きっと心がついていかないに違いない。

 気遣うように毎日入る聡彦からの電話。

「はい」
『あ、もしもし。舘ですが……一度会ってきちんとお話しませんか』

 これが私を翻弄させた人の言葉だろうか。
 まるきり別人の仮面を付け変えてしまい、横柄で意地っ張りで……時々可愛い顔をするあの無防備な彼では無い。
 声を聞くたびに悲しくなるから、私はとうとう言ってしまった。

「私の事を少しでも思い出したら、また連絡下さい。今お会いしても何も変わらない気がするんです」
「……」

 聡彦も困っている。
 あの人が悪いんじゃない。分かってる。
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