シュガーレスキス
■第2章(3話)

1-1 記憶という障害

SIDE 菜恵

 入院して2週間。
 私の体は落ち着いていて、このまま自宅で安静にしていれば大丈夫だろうというお医者様からの判断が下された。
 毎日のように聡彦は私の世話をしに立ち寄ってくれて、会社で起きた色々な話とかをして、笑わせてくれた。
 如月さんは気を使ってくれているのか、あれ以来顔を見ていない。
 それでも、聡彦に会うと「どう?」なんて様子は聞いているみたいだ。

「菜恵。仕事はどうする?」

 聡彦が結構真面目にそう聞いてきた。
 私の中では、もちろん子供を産むまではお休みする気持ちでいるけれど、如月さんが言った「辞めて欲しくないな」っていう言葉がひっかかっていた。
 2年までの休職と産休が許されていて、私はそれを使って仕事を継続する事も考えていた。

「まだ決めてないけど、とりあえず休職届けは出すつもり」

 私の答えに、聡彦は「そうか」とだけ答えた。
 今の職場で産後も復帰する人は多くないから、私はちょっと異例のパターンになる。
 しかも結婚相手が同じ職場に居るとなると、余計会社側からは嫌がられることが多い。

「式は体調の事もあるから、あまり具体的に考えてないんだけど。入籍はしよう。いつがいい?」

 子供を一緒に育てるんだから、結婚するのも当然のなりゆきなんだけど、「入籍」という言葉が急に入ってきてちょっと戸惑う。

「聡彦に迷いは無いの?」

 こう言ったら、聡彦は軽く怒った顔をした。

「俺が責任感だけで結婚しようとしてるって思ってるの?」
「ううん。そうじゃないけど……まだ急がなくていいかなって思って」

 もっと関係を強くしてからの方が私も安心して彼と一緒の道を歩ける気がして、そう答えた。
 
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