あの夏の季節が僕に未来をくれた
俺は傍でそれをただ見守ることしか出来ないでいる。


せめて近くにいることで、彼女の悲しみを全部受け止められるように。


兄貴のことも心配だったけど、もう兄貴には佐伯も父さんも母さんもついてる。


すみれちゃんはたった一人で悲しみを乗り越えなきゃならない。


だとしたら、今俺が傍にいるべきはすみれちゃんの方だと思った。


もう、きっと兄貴の体は借りることは出来ないだろう。


さっきの短い会話が、すみれちゃんとの最期になるのは明白だった。


あまり時間がないけれど、残りの時間はすみれちゃんの傍で過ごそうと決めた。


彼女が少しでも悲しみから抜け出せるように。


俺とのことを思い出に変えられるように。


すみれちゃんの傷みが早く癒えるように。


俺はただ祈ることしかできないけど。


でもそれが今、俺に出来る精一杯なんだ。


やがて、すみれちゃんは泣き止むと、小さく息を吐いた。


それからハンカチで涙を拭うと、携帯電話を取り出した。


何かを操作しながら、メール画面を呼び出すと、懐かしそうな顔でそれを眺めている。


なんだろうと覗いてみた。


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