恋する雑記帳。‐SS集‐
 
でも、いい。

野球でこの子を笑顔にするのが俺の夢。

まだまだ下手くそなうちに笑われても困る。





13年後、春。


「はぁ、いいよなぁ、あのヤカン……」


グラウンドの真ん中で50メートル走のタイムを測っていると、膝の上にヤカンを抱いてベンチから桜を見ている“あのときの女の子"が目に入って、俺は思わずそう声をもらした。

彼女は今、俺たち青雲高校野球部のマネージャーの仕事をほとんど1人でやっている。

ヤカンをひっくり返したり、何もないところでつまずいたり、少々ドジで危なっかしい面もあるけれど、俺たちのためにいつも走り回ってくれる彼女がみんな好きだ。


「ああ、いい天気だ」


こういう日はつい想像してしまう。

例えば、甲子園の切符をかけた県大会、決勝。

その試合でホームランを打った俺は、ダイヤモンドを1周し、ベンチに入っている彼女とハイタッチで喜びを分かちあう。


「今年こそ……今年こそは百合を甲子園へ」


そう呟いた声を聞いていたのは、グラウンドを囲むようにして植えられた桜の木が散らす無数の花びらだけ。

俺の夢が叶うのは、もう少し先のこと。


ーENDー
 
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