鐘つき聖堂の魔女


(こんな時はいつも鐘つき聖堂に行って泣いてたっけ)



あそこは一人きりになれる大切な場所だ。

けれど今はライルと二人なので耐えるしかない。



「家に帰ろうか」

ライルはそういって下を向いているリーシャの手を取って歩き始める。

リーシャが顔を上げるとライルはすでに前を向いていた。

夕暮れ時の帰り道、皆が興奮冷めやらぬ様子で演目について語り合う中、ライルとリーシャは無言で大通りを歩く。

途中、店に預けていた食材を受け取る間もライルはリーシャと目を合わせなかった。

察しの良い人だから気を遣わせてしまったのではないだろうか。

リーシャはライルの大きな背を見つめながら、申し訳ない気持ちになった。

いつしか人の数もまばらになった頃、握られる手が少し強くなった。




「今日はリーシャの好きなものを作ろう」

何の脈絡もなくそういったライルにリーシャは胸がきゅっと締め付けらた。




「ポトフ…食べたい」

「了解」

顔は見えなかったが、ライルは小さく笑っていたように見えた。

この日、家に帰るまで二人の間には会話はなかったが、リーシャにとってその無言の時間でさえ心地良いと感じる時間だった。



< 101 / 180 >

この作品をシェア

pagetop