片恋


どこかで流れていた曲を
探しているのだと、

待ち合わせ場所を離れて歩きながら、
琴子が傘の下で口ずさんだ。


雨のせいか、
それとも人通りが少ないせいか、

細い声が、よく響く。


そのまま、
琴子が普段から立ち寄るという
中古ショップへと向かったのだが、

生憎とそこは閉まっていた。

「定休日」の札にショックを受けながらも、
落ち込む自分を奮い立たせるようにして
思いつく限りの他の店を挙げるので、

あたれるだけ
あたってみればいいと答えて
琴子について行ってみると、

ことごとく店は閉まっていた。

5軒目のここは、閉店している。


笑い事じゃなくて、
一軒ごとにいちいち傷ついて
元気をなくしていく琴子を見てると、

見つけるまで付き合ってやった方が
いいのだとは思うけれど、

雨の中を歩き回るのは、
そろそろ終わりにしたかった。


肩に乗せる様にして差した傘は
やたらと低い位置にあって、

こちらからはその表情が、

全く見えない。

運のなさを笑い飛ばせる気力が、

今日はもともと
ないのかもしれなかった。



「・・・レンタルショップならやってると思うよ。
もしかしたら探してるCDもあるかもしれないし。」

何気なく提案するように言うと、
琴子がゆっくりと傘を持ち上げる。


への字口と下がった眉が、現われた。

必死に見上げる目は「ほんと?」と
訴えてるような気がしたが、

黙って見つめ返すと、
おとなしく踵を返して歩き出す。


・・・結局、

CDは見つからなかったうえに、

ビデオショップの中は寒すぎて、
長くいられたもんじゃなかった。


でもそんなこと、

どうだっていいと思うのに。


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