黄昏に香る音色
ミュートの囁き
まっすぐな明日香の音に、

啓介の太い音が、絡む。

恵子は、その音に、

懐かしさと暖かさ、

未来への輝きを、感じていた。

遠い昔。

恵子と健司が、奏でたように。

明日香は、あたしとは違う。
きっと、

永遠に、幸せな音を奏で、
幸せな音と共に、いれるはず。

こんなまっすぐな音を、出せるのだから。


過去を思い出し、

恵子は、そっと涙した。

誰にも、気付かれないようにしないと。

新しい目標を、見つけた…明日香に失礼だから…。

恵子は微笑み、

いつものように、煙草に火をつけた。

もう明日香に、

恋は、簡単なんて似合わない。

だけど、

まだ…あなたの知らないことばかり…。

でもね…。

もし、傷ついても、

恐れないでほしい。

今日のように、まっすぐに歌いなさい。

まっすぐに、恋をしなさい。

あなたのやさしさと、笑顔があるかぎり、

必ず、幸せにたどり着ける。

あたしは…



さあ、

もう一杯、コーヒーをいれてあげる。
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