黄昏に香る音色
「気にするなよ」

麻美が近づいてきて、あたしの肩に手を置いた。

「別に、悪いことはしていない」

席で固まっていたあたしに、麻美は笑いかけた。

「ストーカー…って、キモイ…」

後ろから、声が聞こえた。

麻美は振り返り、教室中に向かって、叫んだ。

「誰が、ストーカーだ!誰がだ!」

凄い形相で叫ぶ麻美の姿に、教室中が静まり返る。

しかし、1人だけが言い返した。

「ストーカーじゃない!毎日、毎日、渡り廊下から、ずっと見つめてさ!ストーカー以外の何者でもないわ」

そう言ったのは、谷沢だった。

「てめえか!ストーカーだと言い回ってるのわ!」

麻美が、谷沢に詰め寄る。

谷沢は、腕を組んで動かない。

「ストーカーに、ストーカーって言って、悪いの?」

開き直る谷沢に、麻美はキレた。

「好きな男を見たいだけだろ!」

その言葉に、谷沢は笑った。

「好きだって!好きだから、毎日、毎日見てます!」

谷沢は、教室中を見回し、

「それって…やっぱり、ストーカーじゃない!」

クラス中に、笑いが起こる。

「お、おまえら…」

麻美とあたしを囲んで、笑いが沸き起こる。



あたしは、いたたまれなくなって、席を立ち、

教室から飛び出した。

「望!」

麻美の声も、聞こえなかった。
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