黄昏に香る音色
誤解という裏切り
何にも知らなかったアタシ…。

あの人の名前さえ。

(ゆう…)

ゆうっていうらしいわ。

カラオケで、歌をきかせたアタシと、

本物の歌手のあの子。

(馬鹿みたいじゃない!)

エレベーターを降り、ビルの前でへたり込む。


「紗理奈さん!」

優一が、追いかけてきた。

「どうしたんだ?いきなり」

紗理奈は、優一を見、

すぐに視線を外すと、

「今から…アタシの家に来ない?」

「何言ってるだよ。いきなり」

優一は驚く。

「どうせ…目的は、みんな、いっしょなんだから!さっさと、すましたらいいのよ!」

紗理奈は、叫んだ。


言葉なく、立ちすくむ優一。


「来ないんだったらいい…帰る」

「紗理奈さん」

背を向けて、歩きだす紗理奈は、何とか手を伸ばし、止めようとする優一を、振りほどいて、

「さんづけなんて、最低だよ」

紗理奈は、走り出した。



ここにいたくなかった。

最低なの、は自分。

それが、わかりながらも。


ワンルームマンションに、帰った紗理奈は、

ユニットバスの中、

シャワーを浴びていた。

ふっと目線が、手首にいく。

忘れてた。

最近…落ち着いていたから。

暑くなっても、けっしてTシャツを着なかった。

店でも、お客に分からないように、何とかして隠していた。

これを見ると、

自分の弱さが分かる。

無性に、独りがこわくなり、誰かにいてほしくなる。

誰でもいいから。

家を飛び出した癖に。


紗理奈は、シャワーを止めると、タオルをつかみ、

ユニットバスから出た。

狭い部屋を見回した。

勝手に、

男が、住み着いた訳でないことも、わかっていた。

紗理奈は裸のまま、

部屋のほとんどをしめるベットに、倒れ込んだ。




まだ…決まった訳じゃない。

明日、確かめにいこう。

優一にも謝らなくちゃ。


紗理奈は、静かに目を閉じた。
< 361 / 456 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop