黄昏に香る音色
半年くらいたったある日。

営業が終わり、

三人がいつものように、お金を払おうとしたとき、

三人は、恵子から封筒を渡された。

中には、三人が今まで払ったお金…プラス、

ギャラが入っていた。

恵子は呆れながら、

「ギャラ払うからには。ちゃんとした曲を、やってもらうからね」




その日から、彼らはずっと店にいた。

才能があり、kkがなくなっても、どこでも演奏できたはずなのに。

再びダブルケイに、音楽が戻った。

それから、

啓介を引き取る…少し前…。

理恵、健司の遺品の中から、恵子宛ての手紙を受け取った。

それは、理恵が出さなかった手紙。

生まれてくる子供のことと、日本にいる和美のことだった。

(なぜ、あたし宛てに?)




それから、もう何年たったのだろうか。

恵子は、和美の為の曲…未来を聴きたくなり、

久しぶりに、理恵のCDを購入した。

聴いた瞬間、

恵子は理解した。

理恵という女を。


「理恵さんに乾杯」

恵子は、グラスを天に掲げた後、ワインを飲んだ。


あれから20年以上。

マンションに流れる…歌声を聴きながら…。

このアルバムには、

歌手安藤理恵ではなく、

母親である安藤理恵がいた。

何もしてやれない母親。


(あたしは、何かしてあげれたかしら?)

理恵のように、曲を残す力は、もうない。

あの子達は、あたしをこえている。

(母親として…何か残せたかしら)

恵子は、テーブルの上に置いたCDのジャケットを見つめ、

(あたしから、すべてを奪ったのはあなた。でも…)
恵子は、グラスを見つめ、

(今のすべてを与えてくれたのも、あなた…)


今は、誰も恨んでいない。

(あたしより、あの子たちの幸せを…そう思えるあたしは幸せ)

恵子は、グラスを傾けた。


「幸せなあたしに乾杯」

例え…

終わりが近づいていても。
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