黄昏に香る音色
I Fall In Love Too Easily...
トランペットが吹けない。

最初から、ずっと練習してる曲…バイバイブラックバードが吹けない。

明日香が、あたふたしていても関係なく、

バンドは、次の曲…I Fall In Love Too Easilyに入る。

明日香は慌てて、ミュートをトランペットにつけると、一度息を吸い、静かに吹き始める。

バラードだ。

目を閉じ、バンドの演奏に身を任せながら、

明日香は、頭の中でイメージした。

恵子を包む健司のように…吹こうとした。

だけど、イメージできない。

フレーズが浮かばない。

目を強く瞑り、明日香は音の中を…さ迷う。

暗闇の中で、やっと見つけた光は…

ゆうの顔をしていた。

ゆうは微笑み、明日香に告白する。

好きだ。

その言葉が、グルグルと明日香の周りを回り続ける。

多分…顔が赤くなってる。

恥ずかしさに、力がはいる。

何を吹いてるのか…

どこを吹いているのか…

わからないまま、

演奏は終わった。



「お疲れ」

他のメンバーが、ステージを降りても、

明日香は、しばらくステージに立ち尽くし、

やがて、溜め息とともに、ステージを降りた。

バンドは、休憩に入る。




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