黄昏に香る音色
手摺りから慌てて、体を離した明日香の目が、

勝手に、意識を離れて、男の子を映し…明日香の記憶に、焼き付けようとする。

クローズアップされたかのように、夕陽に照らされ、あどけなさが残る…

少女のような綺麗な横顔が、明日香の頭に、飛び込んでくる。

睫が長く、憂いを帯びた表情。

明日香の心の奥が、観察し、報告する。

この男の子は…特別だ。

戸惑い、惹かれる明日香の目が、男の子から離れない。

その刹那、

古い…手で回す映写機が、映し出す映像のように、スローモーシュンで、

男の子はゆっくりと、明日香の方に、顔を向けた。

綺麗な少年…から、明日香に向けられた

やさしい眼差しと微笑み。

先ほどの悲しげな表情とは違い、…とてもうれしそうに…。

明日香は驚きながら、

映写機の回りが、突然よくなった…早回しの映像のように、

明日香の意識の上で、再生される。

(なんて…綺麗な人)

明日香の全身が、駒送りのような動きとなり、

スローモーションのように、渡り廊下を後にした。


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