黄昏に香る音色
健司のことはなぜか…

触れられない雰囲気があった。

明日香が憧れ…常日頃、彼のように吹きたいと言っていても、、彼自身の話は…まったくでなかった。

今どこにいて、何をやっているのか…。

阿部は、煙草をくわえたが、なかなか火が点かず、

煙草を灰皿に捨てた。

そんな阿部の様子を、見つめる恵子。

「トランペッターとしては、最高だったよ!だけど、男としては…人間としては、最低だ!」

阿部は、カウンターを激しく叩いた。

明日香は戸惑い、言葉が出ない。



「もうやめなさい。大樹」

これまで、阿部のことを名字で、呼んでいた恵子が、

初めて、下の名前で呼んだ。


「いや、やめないよ。姉さん!いい機会だから言うよ」

阿部も、恵子を姉さんと呼んだ。

明日香は驚いた。

阿部は、カウンターに立つ恵子を見上げた。

「いい加減…忘れよう!あいつのことなんか!」

阿部は叫んだ。

思いも寄らない阿部の言葉と迫力に、

自分に言われていないのに、圧倒される明日香。

言われている恵子は、冷静さを取り戻していた。
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