あの加藤とあの課長
「常務と専務に目をつけられなければ、平和で幸せな生活を送れただろうにって、そればかりよ。」

「そっか、敏ちゃん、ありがとう。」

「今度、専務や常務の秘書やってる現役の子に話を聞く予定よ。」

「分かった。それじゃあ、私もう仕事に戻るね。」



私は椅子から立ち上がると、今日は生渕さんを早く帰らせようと決意した。



「本当に気を付けるのよー!」



敏ちゃんの言葉に笑顔を返して、私はオフィスに急いだ。

その途中、自販機に寄ってスポーツドリンクを買った。


オフィスに戻ると、生渕さんはぐったりと椅子に腰掛けていた。

お昼休みなのに、ご飯食べなかったのかな…。



「課長。」

「ん…、加藤か…。」



生渕さんの隣に置いてある自分のデスクに腰掛けると、そっと生渕さんの手に触れた。

お昼休みのオフィスには私たちしかいない。



「加藤…?」



不思議そうに私を見る生渕さんの顔は、いつもとなんだか違う。

(熱あるからかな…。手熱いし…。)



「課長、今日は定時に上がってください。私が済ませておきますので。」



さっき買ったスポーツドリンクを生渕さんのデスクに置くと、私は仕事に取り掛かった。
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