あの加藤とあの課長
「運転して帰るんですか?」



車通勤の生渕さんを見上げると、生渕さんはゆっくりと首を横に振った。



「いや、止めておく。」



お昼よりも辛そうだから、熱が上がっているんだろう。

本人もそれをちゃんと分かっているようで。



「タクシーで帰るから、大丈夫だ。」

「明日、無理して出てこないでくださいね。」

「…分かった。」



今の間は、何でしょうか。

ジロリと生渕さんを睨み付けると、生渕さんは少なからず怯んだように見えた。



「…俺を睨むなんてお前と敏くらいなもんだぞ、ったく…。」



そうぼやきながら外に向かう生渕さんの背中を追いかけた。



「どこまでついてくる気だ。」



そう言う生渕さんはいつもと変わらないように見えるけれど、若干フラフラしてるし。

熱も高いだろうから1人になんてできない。



「課長がタクシーに乗るまで見てます。」

「早く戻れ、帰り遅くなるぞ。」

「構いません。」



それからタクシーを捕まえて、生渕さんがタクシーに乗り込むのを眺めていた。

明日もあるから今日は生渕さんの所に寄れそうにはないな…。



「…陽萌。」



突然呼ばれて我に返ると、生渕さん開いた窓から私の方を見ていた。



「…悪いな、遅くならないようにな。」

「…生渕さんも、お大事に。無理しないでくださいね…。」
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