あの加藤とあの課長
それは改まったようにも見えて、醸し出された雰囲気が私を緊張させる。

何を言われるんだろう。



「陽萌。」

「…はい。」



あまりに改まって言うもんだから、思わず敬語で返事をしてしまった。

私も少しだけ、姿勢を正した。



「お前、退院しても、あの部屋に住むか?」



あの部屋っていうのは、私が今住んでいるマンションのあの一室のことだろう。


言われるまで考えていなかったけれど、確かにこれからもあそこに住むのは…。

(なんだか嫌だ…。)


何より、一人暮らしに対して恐怖心が拭えそうにもない。

油断してた私が悪いんだけど…。


私の手を、包み込んだ温もり。いつの間にか俯いていた私は、そっと顔を上げた。



「一緒に、住まないか。」



言葉が出ないっていうのは、たぶんこういうことを言うんだと思う。



「同棲…ってこと?」



ゆっくりと深く頷いた源からは、少しながら緊張が伺える。


同棲自体はもちろんしたことがある。

だけど、まさか源がそんなことを考えてくれていたなんて。



「…陽萌の親御さんや兄貴には話をして、一応挨拶もしておいた。」

「え…。」

「お前の家の荷物くらいなら、敏とかにも手伝ってもらえば業者に頼まなくても済ませられる。」
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