あの加藤とあの課長
「だって…、食べてくれる人いないのに作っても…なんか、ね。」



それに、2人分ならまだしも、1人分だけを作るのって逆に大変だったりするし。

源は「ふーん」と言いながらもご飯を食べる手を休めない。



「今度からは作れよ。俺が食うし。」



そんな言葉に笑った私に、源は優しく笑いかけてからふと箸を止めた。

料理に視線を落とし、ポツリと言った。



「…俺、母親いないんだ。」



突然の話に思わず固まってしまった。



「俺が2歳の時に、交通事故。」

「源…。」

「だから、こういう家庭料理ってあんまり馴染みないというか。」



そっか…、源、料理上手いもんね…。男の人だけど家事だって万能だし。

そういう経緯があってなのか…。



「人と暮らすのすら久々で少し戸惑ってるけどな。」



「実は」と付け足しながら、源は何でもないかのように笑った。


源の気持ちが、少し分かってしまった。

来るもの拒まず去るもの追わずだったのは、愛されたかったから…なのかな…。



「お父さんは?」

「親父は仕事ばっかの人間だったからな…、昔から一人暮らしみたいなもんだったな。」

「そっか。」



家族の愛に飢えた源。

(私が…。)
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