あの加藤とあの課長
トントン拍子で部長まで上り詰めたやり手だ。



「どう? 今晩。」



グラスを仰ぐ仕草をしながらそう言う。

こういうことは、まぁよくあるもので。基本は丁重にお断りさせていただく。



「いえ、今日はおそらく残業なので。」



きっぱりと言うと、つまらなそうに口を尖らせる本間さん。


この人はなぜかすごく私を気に入ってくれて、『陽萌ちゃんなら』とまで言われてしまった。

だから引き継ぎができなかった。


寝たことは、正直、ある。



「では、後日また伺います。」



そう言って立ち上がった瞬間、視界がグニャリと歪んだ。



「陽萌ちゃん!?」



足元から崩れ落ちた私を咄嗟に抱き止めてくれたらしい。

けれど言葉を発することすらままならず、私はそのまま意識を手放した。



あーあ。
寝不足がこんなことになるなんて。

最悪。


出先で倒れるだなんて。



課長に、怒られる。
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