あの加藤とあの課長
「…そういえば、人事部の先輩に聞いたんですけど。」



2泊3日の滞在を終え、帰りの新幹線に乗る増田ちゃんを見送りに来た。

そんな駅のホーム、増田ちゃんが言った。



「そのうち、大阪出向組の何人かに、本社に来るよう通達がいくはずです。」

「そうなの?」



本社に…?
一体、何の用事…。

見当がつかなくて首を傾げる私に対し、増田ちゃんは仕事の顔に近い顔をしていた。



「本社に戻ってくるか、それとも。」



増田ちゃんは、そこで言葉を区切ったけれど。

聞かなくてもその先は、分かってしまった。



「大阪にそのまま、留まるか。その選択です。」



そっと目を閉じて、風で乱れる髪を押さえた。



「…そっか。」



東京に戻るか、大阪に留まるか。

正直ありがた迷惑な話だ。
そんなの会社で決めてくれればいいのに。


目を開けて、増田ちゃんを見据えた。



「…帰って、来てください。」



そう言う増田ちゃんの瞳は潤んでいて。



「…うんとは、言えないな。」

「なんでっ…。」

「…そっちに私の居場所は、あるの…?」

「それはっ…。」



途中口を噤んだ増田ちゃん。
ないなんて、言えっこないもんね。



「……とにかく…、帰って来て、くださいね…!」



そう言い残して、彼女は新幹線に乗り込んだ。
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