あの加藤とあの課長
「加藤さん、お昼行かない?」



その日のお昼は、恵也が外回りでいなかった。例の彼女も丁度席を外している。

断る理由なんてなかった私は、その誘いに頷いた。



「…はい。」



それに明らかに嬉しそうにする高山課長。


自分に好意を寄せいていると分かりきっている相手と2人きりになるのは、正直気が進まない。

けれど、仕事と思えば、何とかなる。


財布だけを持って、席を立った。



「近くの食堂でもいい?」

「あ、はい。」



てっきり社食に行くもんだと思っていたから、その言葉に少し驚いた。

会社から数分のそこは、ちょっとした穴場で客もあまり多くはなかった。



「生姜焼き定食とー…、加藤さんは?」

「あ、私も同じものを…。」



さっさと注文を終えると、高山課長はお冷をグッと一気に煽った。



「…出たでしょ、本社への辞令。」



その言葉に、おしぼりで拭いていた手を止める。

…そっか、この人、人事部長の息子だから、その辺の情報は筒抜け…。



「はい。」

「あーあ、惜しいことしたなぁ。」



そう言って項垂れる高山課長に、思わず警戒心を剥き出しそうになる。
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