あの加藤とあの課長
ごめんの意味は、よく分からない。
それでも、私は源を信じるだけだから。



「課長、おかえりなさい!」



一緒に出社すると、まずそう言ってくれたのは晋ちゃん。

まぁ基本皆、怖がっちゃって源にはあんまり話しかけないんだけどね。



「あぁ。」

「陽萌めっちゃ頑張ってたんですよー!」

「だろうな。どうせまた無茶したんだろ。」



なんてサラリと言うから、私の顔が引きつったのは言うまでもない。

やっぱりバレてたのか…。


自然と目を逸らしたそのとき、私たちを見つめる眼差しに気が付いた。


ここはエントランスホールで、出勤時間の今はとにかく人が多い。

そんな人々から向けられるのは、言わずもがな、好奇のものがほとんどだ。



「…気にすることないよ、陽萌。」

「晋ちゃん…。」

「課長も、気にすることないですって。」

「俺は別に気にしてない。」



元々私たち自体が社内ではちょっとした有名人だったし、私たちが付き合っていることも有名な話。

元々私たちは格好の標的なんだ。


だから、慣れてる。慣れてるはずのに……。



「…課長。」



隣の源を見上げれば、私の不安を見透かしたように口角を上げた。



「大丈夫だ。俺がいる。」



その言葉だけで大丈夫だと思えるから、不思議なもんだ。
< 446 / 474 >

この作品をシェア

pagetop