あの加藤とあの課長
「陽萌ー、好きー。」



私を抱き締め直した湊は私の髪に顔を埋める。

くすぐったいし、自分がどうしてこんな風になってしまったのかも分からないし。



「離して…。」



そう言った私の声は、とても小さく掠れていた。湊に聞こえたかは定かではない。



「…課長。」



聞こえなかったのか、それとも無視したのか。

私の声に反応を示すことなく、課長は私たちが出てきたバーへ続く階段を降りていった。



「…課長…。」



もう1度呟いてみたけれど、私の声は闇に溶けるだけだった。



「陽萌ー、タクシー捕まえてきたぞ。」



煌が戻ってきてからも、私は放心したままで、どうやって家に帰ったのか分からなかった。
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