春の訪れ…君の訪れ…
プロローグ

…また春が来た。
今年も毎年のように家の周り一面に桜の花が咲いた。
その中に1本だけ大きな桜の木…
やはり今年もその桜の木だけは花を咲かせなかった。

私はその桜の木に近づいて幹をさすった。
幹には過去、私が傷つけた跡が残ってる。
私は生きている限り忘れることはできないだろう。
その傷をさわった。
もう、来週にはこの木は伐り倒されるらしい。

…お別れに来た。


この1本の桜の木にはたくさんの思い出がつまっている。
私がとてもつらかったとき、泣いたとき…
逆に笑ったとき、楽しかったとき…
いつもこの桜の木の下にいた。
ときどきあの人が現れたのもこの桜の木の下…


柔らかい風が吹いて桜の花びらがひらひら舞う。
わかってる、わかってるから…
私は桜の木から手をはなして涙をぬぐった。
前に進まなきゃ。私には大切な人が…

「ママ!早くいこぉ!」
「いくぞぉ。」

「うん!わかった。今行くね。」

私は1歩歩き出した。

大好きだったよ私も…愛してた…

あのころにはもう戻れない…
たしかに私たちは…ここにいたね…


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