十二の暦の物語【短編集】

雨の中の花嫁

「有り難うございました」

黒いスーツをしっかりと着たお店の人が私達に深々と頭を下げる
白い綺麗なドアを開けて、私を通してくれる

初めて履く高いハイヒールを気にしながら階段を降りる

階段を降り切った所でやっと安心して顔を上げる

『今日は本当にご馳走様でした』
「美味かったか?」

私よりも20cm以上高い位置にある綺麗な顔
少し茶色っぽいショートカット。綺麗に輝く漆黒の鋭い瞳が私を見つめてふにゃっと笑った

『はい!でも、本当にお金…』
「大丈夫だって何回も言ってんだろ?」
『でもこんな高い服まで買ってもらって…』

私は言いながら今着ている細かいプリーツの真っ白なワンピースを見る
このワンピースも、ハイヒールも、全て彼が買ってくれた物

「ココ、ちゃんとした服着てねぇと入れねぇから」

親指で今私達が出てきたレストランを指しながら真っ黒の車に歩く

『こんな高い所で奢ってもらうって悪いですよっ』
「いーから。さ、どうぞ」

車の助手席を開けて私の手を取ってくれる

『すいません…』
「何で謝んだよ。俺が奢りたいから奢っただけだろ」

運転席に座ってシートベルトを締めながら優しく首を傾げて外を見る

「…お、雨」
『ホントだ…』

外を見ると、いつのまにか結構な雨が降っていた
梅雨の季節は、特に最近は雨がよく降る

皆は雨が嫌いって言っているけど、私は幼い頃から雨が大好きだった
中学高校でテニス部だったのにも関わらず、雨が大好きだった

「水月(ミツキ)は、雨好きだよな。昔っから」
『はい。大好きです♪』

だって、雨の季節は6月――
6月の花嫁に憧れていた私にとって、梅雨の季節、6月は年の中で1番好きな月だった
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