哀しみの音色
「莉桜っ、待てって」
「……」
浩介さんの姿が見えなくなってから、ようやく莉桜の腕をとらえた。
捕まれた莉桜は、無言のまま立ち止まる。
「どうしたんだよ。お兄さん、莉桜に用があって来たんじゃねぇのか」
「……用なんて、分かってるから」
まただ…。
決してこれ以上聞いてはいけないような口調。
拒絶が混じっている声色。
「り……」
「樹の家に行きたい」
「え?」
莉桜は突然、そんなことを言い出した。
「お願い」
「……ああ」
俺は断る理由なんか見つからず、莉桜を家に招き入れた。