何度でもまたあなたに恋をする
なんなんだ。あの恋愛漫画のようなシナリオは。普通に考えてありえない。それこそ、御伽噺。空想。夢の世界だ。まだ信じられない。どこをどう好きになってもらったかなんて検討がつかない。

なんだろう。この気持ち。さっきから考えることは全部、清水さん。春馬のことばかり。今までこんな風に一人の人のことを長い間考えることがあったかな。忘れているだけ?

でも、記憶の中には誰かを思って心が温かくなったり、嬉しくなったりする気持ちはない気がする。でも心地いいな。くすぐったくて恥ずかしいけれど嫌な気持ちは一つもない。

これが『好き』ってことなのかな。

早く会いたいな。そんな風に一人胸を熱くしていると突然、けたたましく鳴り響く電話の音がする。慌てて教わったマニュアルを書いたノートのページを巡り、深呼吸をして受話器を取った。

「はい、矢島建設です」

受話器越しに聞こえてくるのは気持ちの悪い男の人の吐息。間違い電話?でも、仕事の電話かもしれない。気持ちが悪いけれど勝手に切るわけにはいかない。

「あの、ど、どちらさまですか?」

「ねえ。いくらならいいの?」

体中に一気に鳥肌が立ってすぐに受話器を置いた。何、今の。気持ち悪い。嫌だ、嫌だ。体を自分で包み込んで震えを止めようとしてもなかなか収まらない。
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