かえるのおじさま
美也子は飛び出た目玉の間を撫でてやった。

「約束する。もし、魔導士に会っても、私は帰らない。ずっとギャロのそばにいるから」

「本当に?」

「ええ、本当よ」

ふと、やぐらの上で行われる奉納舞が目に入った。
それは異界から来た美也子にとってあまりに幻想的な光景だ。

踊り手は黒毛の猫頭の娘。
それがやたらと袖と裾の長い、緋色の衣装を着込んで、ふわり、ふわりと鷹揚に舞う。
翻る裾が、袖が、たなびく雲のように尾を引いた。

やぐらの真後ろには冴え冴えしい月。
その逆光の影色に染まった緋は黒く、それがひらり、ふわりと空を泳ぐ様は慈雨を孕んだ雷雲を思わせる。

「きれいね」

雷雲をまとって踊る猫、それはまさしくファンタジーだ。

だが、今はここが美也子にとっての現実である。
夕闇に冷やされた心地よい風が、それを美也子に知らしめた。

ならば今、ここに感じている恋情もファンタジーなどではなく、間違いの無い現実であろう。

「だから、帰らないの」

美也子の声は、お囃子の音にまぎれて消える。
ふわりとまた一つ、舞い手の袖が月にかかった。
< 137 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop