かえるのおじさま
いくら醜怪種が珍しいといっても稀有なわけではない。歌だって悪くは無いが、それだけで歌姫になれるほどの歌唱力があるわけでもない。

「どんな芸を見せたんだ」

「どんなって……普通の」

ふいとそらされる視線にギャロの不信は募る。

「普通って、どんな……」

「普通は普通よ! ほっといて!」

腕は振りほどかれ、札がばさっと散らばった。

「ともかく! 洋服代、返すっ!」

美也子は乱暴に背中をむけて上掛けにもぐりこむ。それっきりだ。

「別に、金なんか要らない」

落ちた札を拾い集めながら、ギャロは薄地の上掛けが小刻みに震えていることばかりを気にしていた。

「あれは俺からのプレゼントだと思って、黙って受け取ってくれ」

覚束ない指吸盤と哀願を込めた声音。それでも美也子は一声も返してはくれない。

「頼む、美也子」

その声はランプの炎がじ、じと芯焦がす音にすら負けそうなほど小さく、さみしげな響きであった。
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