可愛い生徒(カノジョ)の育て方
「先生、学校は今日お休みだったの?」

 おそらく、俺が今、ジャージを着ているのを見てそう感じたのだろう。

「いや。午前中はちゃんとスーツで出勤したんだけどな。この時期はみんなで手分けして引っ越しの手伝いをするんだ。
 新しく来た教頭先生の引っ越しを終えて、ここにまっすぐ来た」

「そうなんだ~」

 あんなことがあったのに、普通に話せるのが嬉しい。

 気配りが感じられた。

 バックミラーで安西の顔を見ると、つい笑ってしまう。

「久しぶりにネタを提供してやるよ。
 教員住宅、俺達は『公宅』って呼んでるんだけどさ。
 一斉に引っ越さないと荷物が搬入できなくなるから、みんな一緒に引っ越しなんだ。
 毎年辞令交付式の後、誰がどこの引っ越しを手伝うか、総務部あたりが割り振りをする」

「ふーん」

「俺みたいな独りものの引っ越しは楽だけど、家族が多いところや、ピアノを運ぶ家は大変だ。ピアノは普通、業者が運ぶんだ。
 でもこの時期は業者も混み合っていてなかなか予約が取れないらしくて、必死に三階まで運んだこともある」

 そんな話をしていたら、俺のアパートの前に着いた。
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