可愛い生徒(カノジョ)の育て方
 バスより一足早く、宿泊先に着いた。

 本当に山の中にあるらしく、周りには何もない。

 街へ出るのに、車で30分かかる。

 ……こりゃあ、缶詰めには最適な環境だな。

 貸し切りバスが4台到着したので、そちらの手伝いに行く。

 拡声器や講習で使うプリント類を運んで、トランクから生徒の荷物を出す。

 その時、俺の耳に気になる声が聞こえてきた。


「いや~! こっちに来ないでぇ~! あっちに行ってよぉ! ああっ! 服の上からでも!? もうやめてってば~!」

 という可愛らしくも悩ましい声。

 この声の主は、間違いなくあいつに違いない。

 一体あいつは、誰から何をされてるんだ?

 生徒全員のカバンを出し終えて、バスのトランクから出た。

 すぐに、声が聞こえた方を見てみると……。

 身体をバタバタ動かして、蚊を追い払おうとしている安西がいた。

 声とは異なり、悩ましさ、0%だった。
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