花は花に。鳥は鳥に。
「さぁさ、そろそろ片付けちゃいましょ。なんて寝坊助な母娘だろうって、仲居さんたちに噂されちゃうわ。」
「それはヤだなぁ。これ以上悪い噂を残したくないわ。」
 小さい声で返した。すでに酔っ払いの話は広まっていることだろう。
 まだ萎れているわたしに、母は大きくため息をこぼした。
「ほんっと、あんたは小さい頃からしつこかったものねぇ。」
 返事はしない。だって、母の時とは事情が違う。
 後ろ暗いものなど何もなかった母が、さっぱりと思い切れるのは当たり前だと思う。
 わたしは負け犬なだけじゃなくて、卑怯な裏切り女だ。だから、こんなに苦しい。
 なんの救いもないから。

 不倫に走った者たちが、やたらと美化したがるのって、そういう事のせいだよね。
 なんの救いもない。
 愛しあったんだっていう、頼りない想い出だけが心の支えになってる。
 罪を重ねただけの、無駄な時間だとは認めたくない。

 わたしは祐介を愛してなどいなかった。だから、なおさら思う。
 なんてバカな事をしたんだろうって。当時の自分はどうかしてたんだとしか思えない。
 そんな言い訳、聞きたくもないって返されるだけなのも解かってる。
 だけど……。
 この堂々巡りの想いは、いったいどこへ持って行けば解決するんだろう。
 わたしは罪人で。赦されたくて。だけど、彼女に会うのが怖い。
 自分の罪を美化して誤魔化すズルさも持てなくて。
 ただ、ただ、こうして悔やんでいることしか出来ない。
 これも、ポーズかもしれない、なんて自分を疑ってる。
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