花は花に。鳥は鳥に。
 今でも後悔している。

 会わせるんじゃない、と、あの日の自分に強く訴えたい。

 きっかけはもう忘れてしまった。

 当時、遙香にもカレシが居て、ダブルデートなんて言って気取ってみたんだったか。

 あの日のことは本当に、鮮明に覚えている。

 胸が苦しくなるくらいに。


「遙香ー、ごめん、待った?」

「毎度の事だからね、慣れちゃった。」

 小さく肩を竦めて、遙香はわたしの遅刻を許してくれた。

 明るい茶髪はファッションカラーではなく、外国の血が入った彼女の血統だそうだ。

 わたしは密かに遙香の天然カラーの栗毛に憧れていた。


「今日はほら、それでも五分しか遅れてないでしょ?」

「あたしは十分前に来たのデス。」

「……ごめん、」

 会社勤めをする前のわたしにはどこか甘えた意識があって、どうしても約束の時間を守る事が難しかった。

「そんなんじゃ、社会に出てから苦労するよ? 紗江。」

 遙香は学校の関係で一足先に就職を決めて社会に出ていたから、時々、お姉さん風を吹かせた。


 気の利いた提案も、いつも遙香だった。

「男性陣はもうちょい後で合流するから、先にちょっとお茶でもしない?」

「え? なんで? 同じ時間に待ち合わせたら良かったんじゃないの?」

「あんたねぇ。あたしのカレシはまるで知らない他人でしょ?

 それなのに遅刻とかしたら、あんた、大恥掻いちゃうのよ?

 あんたのカレシだって幻滅するかも知れないわよ。

 そういう事も考えなくちゃ駄目なのよ。」

 さすがは遙香だ、なんて、この時には惚れ惚れしたものだった。


 わたし達が入ったのは、待ち合わせ場所からそう遠くない喫茶店だった。

 モダンな黒のテーブルとチェア、白いスクエア型の灰皿。遙香は煙草を吸う。

 珈琲を頼んで、改まって遙香はわたしに祐介とのなれそめを聞いた。


「ねー、写真は見せてもらったけどさ、あんなイケメン何処で捕まえたのよ?」

「大学かアルバイト先しかないでしょー、出会いの場なんて。けど、後は秘密。」

「えー。あんた、バイト先とか教えてくれないじゃん。何処で会ったのよー。」

「バイト先教えたら、あんた来るじゃん! 絶対教えないっ。」

「行くに決まってるじゃん、あたし達、親友でしょー!?」


 親友という言葉が、今となっては胸に突き刺さる。

 バイト先を教えたくなかったのは、単純に、夢を叶え損ねた自分に引け目があったからだ。

 卒業後も、夢だった事柄とは何の関連性もない仕事を、結局は選んでしまった。

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