花は花に。鳥は鳥に。
 あっという間に三杯の水割りを呑みほして、課長はいきなり動きを止めた。

 この水割りがわたしのものより濃いめなのをわたしは知ってる。

 物思いに耽るイケメンも乙なものだけど、真横だとちょっと心臓に悪い。

 何を考えて黙ったんだろうかと、気になった。

「美作、」

 声のトーンがひとつ低い。

 思わず身構えてしまいながら、課長の顔を覗き込んだ。

 アナタ、奥さん、居るんですよ?

 課長がこっちを向いた。切なそうな目が、ヨかった。


「バリキャリで過ごしてる女性ってのはさ、その、子供とか、欲しくないのかな。」

「わたしに相談されましても。」

 別にキャリアじゃねーし。

 一瞬で、色っぽいなぁと思った感想まで吹っ飛んだ。

 わたしの事を意識してて、わたしの方でも気があるだろうって解かっていて、どうしてそんな事を聞くんだろう。

 話に出てる人物は、間違いなく課長の奥さんだ。

「だよなぁ。同じ女性なら気持ちが解かるもんかなと思ったんだが。

 いいや、忘れてくれ。」

「子供要らない宣告とかされちゃったクチですか。」

 こっちの問いかけには答えずに課長は俯いた。

 いろいろあるんだ。

 肉食系なら、ここでコナ掛けて食ってしまうところなんだろう。

 わたしは、どう答えたらいいものか、身動きが取れなくなっていた。

 ほんの少しの沈黙は、居た堪れないという程の重さもなくて、普通に受け流せる。


「ちょっと。そろそろ限界を感じている。」

 ぽつん、と。

 わたしの事などまるで見ないでそう言った。

 苦笑を浮かべる横顔はやっぱり切なそうでイイんだけど。

 さっきまで感じていた危険な空気は消えてしまっていた。

 男にとっては、子供産んでナンボなんだろう、嫁ってのは。

 結婚したら気が変わる、目論見は大ハズレ。よくある話だ。

 産めないわけじゃないのに、なんで産んでくれないのか。

 イライラするのはわたしがカレシの浮気に苛立つことと同じなのかも知れない。




 子供が欲しくない女なんか選んだアンタが悪い。

 女にだらしない男を選んだワタシが悪い。

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