花は花に。鳥は鳥に。
「いやー、ほんまに久しぶりやんなぁ!」

 周囲を気にしない大きな声はきっと母譲りだろう。

 久しぶりに会う従姉妹の大学生だ。


 今年は就活とか忙しいんじゃないんだろうか。

 すっかり就活モードになった麻由美は清潔感溢れる黒髪のストレートに戻していた。金パだったのに。

 一年浪人して希望の大学に入った彼女は、今年で二十二歳のはずで、大学卒業間近のはずだ。

 就職決まったの? なんて聞いていいのかどうかさえ解からない。

「もー聞いてぇや、紗江ちゃん。面接十社受けて全滅やで、全滅!」

 どうやら決まってはいないらしい。

 麻由美はさっさと母親を押し退けて、わたしの隣に陣取った。


「いきなりそないな話したかて、紗江ちゃん、解からへんやろ!」

 叔母さんもその隣へ座る。

 ついでにママに向かってビールを注文した。

 いつでも何処でもマイペースだ。

 レンガ造りの内装は、欧州あたりの酒場を意識した感じのこのお店だけど、そこでビールとは。

 雰囲気だのお洒落だのは、おばちゃんに掛かれば「気取りなや!」と一笑に付されるものだったけど。

 おつまみの枝豆とウィンナーが出てきた。

 ウィンナーはわたしが頼んだものだけど、叔母さんにかかると他人の注文も自分の注文したものになる。

「美味しそうやなぁ、一個ちょうだいな、」

 横から素早く攫っていって、代わりに枝豆のカゴがこっちへ寄ってきた。

「これ、食べ。」

 遠慮なく一掴みを貰いうけて、緑色の豆を一粒口に入れた。

 ビールを受け取り、一息に呑みほして「ぷはーっ、」なんて横でやられると、こっちまで呑みたくなってしまう。

 キンキンに冷えたビール、風呂上がりの一杯は堪らないものだと思い出した。

 生唾が涌く。


「あっ、」

 叔母さんは何か思い出したような顔をした。

 なんだかじれじれしていたと思ったら、申し訳なさそうにわたしを見た。

 そして、申し訳なさそうに言った。

「あんなぁ、紗江ちゃん。

 あんまり気にせんといてや、あんたのお母ちゃんから相談されてるんやわ。」

 水割りを吹きだしそうになった。

 そして、母はこんな所にまで根回ししていたのかと、頭を抱えてしまいたくなった。

「あんたに逢うたって、お母ちゃんに話したんよぉ、さっき。

 そしたら、なんや色々と愚痴られてしもうてなぁ、しゃーなしに引き受けてしもぉたんや。勘忍やで。」

 遠まわしに叔母が何を言わんとしているかは解かっていた。

 見合いに行くように説得してくれと母にゴネられたのだ。

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