花は花に。鳥は鳥に。
友達のカレシ
 六道の辻という地名がある。

 仙台辺りが有名だと思っていたら、ここ、京都にも同じ地名を発見した。

 『あの世の入り口』だったらしい。


 一度は自殺を考えたわたしがこんな場所へ迷い込むなんて、なんて皮肉なんだろう。

 結局死にきれずに、五百キロも離れた、誰もわたしを知らない土地へと逃げ出した。

 紗枝は今でもきっと、わたしを許してはくれないだろう。

 誘われるようにこんな場所へ辿り着くなんて、なんて出来過ぎた話なんだろう。


 一見すると閑静な住宅街だ。

 緩い坂の四辻で、そういえば京都という街は何処へ行っても目につく場所に寺がある。

 有名な観光地はどこに行っても、わたし達と同じ旅行客の姿を見ることが出来たけれど、

京都という街は、一歩内側へ入り込んでしまうと、途端に人影すら見えなくなった。

 あんなに沢山いた観光客は、どこへ消えたんだろうかと思うほど。

 まるで異郷に迷い込んだようだ。


「遙香、やっぱり迷子になったんじゃない?

 この辺、ぜんぜん違う番地みたいよ?」

「そうみたいね、お母さん。」

 わたしは周囲を見回してコンビニを探していた。

 コンビニに駆け込めば、とりあえず地図を見せてもらえると思っていたのだけど、肝心のコンビニがこの街にはやけに少ないように感じる。

 母はガイドブックを片手にしきりと、簡易地図と目の前の景色とを照らし合わせていた。

 やはり詳細地図を買っておくのだったと思いながら、母の手許を覗き込んだ。

 つばの大きな帽子の影が手許をすっぽりと覆っていて、くっきりとした影を作る。

 風が吹くと少し冷たい。コートの襟を引き寄せた。

「せめて通行人の一人でも通らないものかしらねぇ、」

 母がまた通りを見回しながらでそう言った。

 人の姿のない街角は、真昼だというのに、どこか不気味に感じた。


 折角の関西圏、休みの都合を付けて罪滅ぼしに母を京都観光に連れてきたのが昨日。

 明日はさらに脚を伸ばして城崎へ行こうという予定になっている。

 母からの、リクエストだ。


 母には無理を言って大阪へ来てもらった。

 向こうで居辛くなってしまったわたしに、母は何も言わずに付いて来てくれた。

 母一人、子一人だから、置いて行くことはしたくなかった。

 母には悪いことをしたと思ってる。

 母の交友関係を考えなかったわけじゃないけど、向こうに居続ける事はどうしても出来なかったから。

 紗枝とはもう半年、連絡を取っていない。

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