花は花に。鳥は鳥に。
 祐介は本当に何を考えているのか解からない男だった。

 わたしが宣戦布告のような真似をした後でも、わたしが誘えば二つ返事でOKをして付き合ってくれる。

 誰にでもそうなのかと思ったら、そうでもなかった。

 きっと、紗枝の友達だからだ。今なら解かる。

 わたしは紗枝の友達。

 だから、大事にしようと思ってくれただけ。


 祐介にとって、誘ってきた女を抱くことは、勧められた珈琲を飲むことと同じ程度なんだ。

 だから、解かっていたのに『うっかりと』、わたしを抱いてしまったに過ぎない。

 後でバレると解かっていても、うっかり手を出してしまう。

 癖って、そんなものだ。


 うなじにキスを落として、祐介は後ろからわたしをそっと抱き締めた。

 女の悦ばせ方を心得ている男だ。

 性急にコトに及ぼうとする男のほうが多いけれど、彼はわたしが求めるものを察知していた。

 彼の胸に身体を預けておくと、それだけで心が満たされる気がした。

「遙香は、ちょっと頑張り過ぎだよ。」

 ソファに二人で座って、しなだれかかるわたしの髪を彼が優しく撫でた。

 泣けてきそうなくらい、祐介の言葉は優しかった。


「何があったか知らないけど、だからって男の部屋へ捨て鉢で来るような女じゃないだろ。」

 笑いで誤魔化して、躱そうとしていることは確かだ。

 わたしもこの時は曖昧に笑った。まだ自分の中では揺らいでいた。

「なんなんだよ。会社でセクハラでもされたのか?」

 祐介はわたしの反応を慎重に見定めていた。

 ぎこちないわたしの笑みを見てとり、さらに軽薄そうな言葉を使ってわたしを笑わせようとした。

「遙香は美人なんだから、あんまり男勝りなとこばっかり見せてたら、色んなところで反感買うぞ。」

 祐介は懸命に、苦手なくせに話題を途切れさせまいと言葉を継ぎ足していた。

 わたしがだんまりでいたからだ。


 祐介はわたしを慰めようとしていた。わたしの名を呼んだ。

 この夜に、恐らくわたしは『紗枝の友達』から『紗枝の』を外して貰えたんだろう。

 彼の言葉はわたしの胸をチリチリと焦がした。

 なけなし程度の理性しかないくせに、懸命に働かせようとしている祐介の態度が、嫉妬を煽った。

 紗枝のために我慢しようとしている、それが腹立たしかった。

 悔しくて、惨めだった。


 この男にとって、恋人以外の女に手を出すことは、単なる悪癖でしかない。

 惹かれたから抱いたわけじゃない、ただそこに居たからというだけ。

 顔すらまともに見ていない。

 それが解かっていたくせに、わたしは下らない嫉妬を振り払えなかった。

 祐介の頬に手を伸ばすと、彼は嫌がる素振りを少しだけ見せた。

 また、チリリと胸が焦げた。

 わたしは構わず手を伸ばし、頬を撫でた。

「キスして。」

 祐介の瞳が、戸惑っていた。

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