花は花に。鳥は鳥に。
店の中も、明るくてモダンだった。
東京あたりのお店みたいで、わたし独りならきっとスルーした。
「いらっしゃいませー、」
女子高生らしいバイト店員が明るく声を上げる。
何屋さんなんだろう、居酒屋じゃないけれど喫茶店でもない。
カラオケの機械がこれ見よがしに鎮座していた。
隅の席に座り、メニューを広げて結論を出す。
ここは、珈琲とケーキを食べながらカラオケも歌えるお店。
お酒もあるみたいだった。
「ここは地元の穴場みたいな店ですねん。
観光客にはなんでか人気がないんですけどね。」
こっそりと平井君が耳打ちして教えてくれた。
「いらっしゃいませー、」
注文の珈琲が来たくらいのタイミングで、またバイト店員が来客に挨拶する声が聞こえた。
振り返った平井君が、わたしの隣で緊張した。
わたしは振り返らないままでも、例のカノジョが来たことを察知出来た。
「誠斗、」
声が、弾んでいた。
「あっ、」
次に、少し沈みこんだ。
振り向いたわたしの目に、Aラインコートの淡いピンクの色が飛び込んだ。
ふわりとした髪型で、気弱そうな表情をした平井君の元カノが彼の傍に立っていた。
視線がぶつかって。
彼女は何か言おうとしたかもしれない。
「この人な、俺が、今付きおうてる女性やねん。」
間髪入れずで、平井君は宣告した。最初から狙い澄ましていたみたいだ。
カノジョはショックを受けた顔を、露骨に表した。
平井君は、気付かなかったフリで続けた。
「ちょっと挨拶だけでもって、聞かへんねん。
都合悪いんやったらすぐ帰らすから、ごめんな。」
わたしは空気を読んで、ぺこりと頭を下げた。
穏やかな、けれど断固とした拒絶。
それを表わすために、わたしという絶対的な存在が必要だったんだ。
口先だけでは希望を抱かせてしまう。
実物を見れば、嫌でも事情は呑み込める。
このカノジョなら、確かにモメることはなさそうだった。
「メールじゃ何やよう解からんかったし、じっくり話した方がええかと思って。
急に呼び出してごめんな。」
平井君は淀みなく、元カノの前でも何も変わらない口調で話をした。
なんて男らしいんだろう、なんて。感心してしまった。
彼女はしどろもどろでも、なんとか笑顔を作った。痛々しさが滲んでいた。
期待するところがあったんだ。
もしかしたら、なんて思ったんだ。
「そっか、そうやんな、もう一年以上も経つんやもん、カノジョくらいいてるわな……、」
下を向いて、彼女は振り切ろうとするように、そう呟いた。
俯いた元カノの言葉を、平井君は彼女以上に傷付いた表情で受け止めたことを、きっと彼女は知らない。
東京あたりのお店みたいで、わたし独りならきっとスルーした。
「いらっしゃいませー、」
女子高生らしいバイト店員が明るく声を上げる。
何屋さんなんだろう、居酒屋じゃないけれど喫茶店でもない。
カラオケの機械がこれ見よがしに鎮座していた。
隅の席に座り、メニューを広げて結論を出す。
ここは、珈琲とケーキを食べながらカラオケも歌えるお店。
お酒もあるみたいだった。
「ここは地元の穴場みたいな店ですねん。
観光客にはなんでか人気がないんですけどね。」
こっそりと平井君が耳打ちして教えてくれた。
「いらっしゃいませー、」
注文の珈琲が来たくらいのタイミングで、またバイト店員が来客に挨拶する声が聞こえた。
振り返った平井君が、わたしの隣で緊張した。
わたしは振り返らないままでも、例のカノジョが来たことを察知出来た。
「誠斗、」
声が、弾んでいた。
「あっ、」
次に、少し沈みこんだ。
振り向いたわたしの目に、Aラインコートの淡いピンクの色が飛び込んだ。
ふわりとした髪型で、気弱そうな表情をした平井君の元カノが彼の傍に立っていた。
視線がぶつかって。
彼女は何か言おうとしたかもしれない。
「この人な、俺が、今付きおうてる女性やねん。」
間髪入れずで、平井君は宣告した。最初から狙い澄ましていたみたいだ。
カノジョはショックを受けた顔を、露骨に表した。
平井君は、気付かなかったフリで続けた。
「ちょっと挨拶だけでもって、聞かへんねん。
都合悪いんやったらすぐ帰らすから、ごめんな。」
わたしは空気を読んで、ぺこりと頭を下げた。
穏やかな、けれど断固とした拒絶。
それを表わすために、わたしという絶対的な存在が必要だったんだ。
口先だけでは希望を抱かせてしまう。
実物を見れば、嫌でも事情は呑み込める。
このカノジョなら、確かにモメることはなさそうだった。
「メールじゃ何やよう解からんかったし、じっくり話した方がええかと思って。
急に呼び出してごめんな。」
平井君は淀みなく、元カノの前でも何も変わらない口調で話をした。
なんて男らしいんだろう、なんて。感心してしまった。
彼女はしどろもどろでも、なんとか笑顔を作った。痛々しさが滲んでいた。
期待するところがあったんだ。
もしかしたら、なんて思ったんだ。
「そっか、そうやんな、もう一年以上も経つんやもん、カノジョくらいいてるわな……、」
下を向いて、彼女は振り切ろうとするように、そう呟いた。
俯いた元カノの言葉を、平井君は彼女以上に傷付いた表情で受け止めたことを、きっと彼女は知らない。