社内恋愛のススメ



「君が好きだ。」


ふいに落とされた、告白。

熱く語られた言葉に、涙腺が緩む。


面と向かって好きだと言われたことがあまりないからこそ、驚いた。



「………っ。」

「文香よりも、他の誰よりも、君のことを想っている。」


上条さんが必死に紡ぐ、愛の言葉。


でも、もうそれだけで十分。

その言葉が聞けただけで、私は十分だ。



これ以上、聞きたくない。


私を想っての言葉も、囁きも、私には必要ないのだ。



だって、私達は離れる。

今日という日を境に、別れなければならないのだから。


そんな言葉を聞いても、つらくなるだけ。

離れ難くなるだけだ。



私は涙を堪えて、上条さんの言葉を聞き流す。

聞き流したフリをする。



「私も、主任のことが好きでした。ずっとずっと、好きでした。………好きだから、あなたにとって1番いい未来を選びたい。」


本当は、ずっと隣にいたかった。

同じ道を歩いて、同じものを見ていたかった。


だけど、それはもう叶わない。



幸せになって。

幸せになって欲しい。


誰よりも恋焦がれた、憧れの人。





「さようなら、上条さん。私達、上司と部下に戻りましょう………。」


それが私が彼に突き付けた、別れの言葉。

大好きだった人への、最後の言葉だった。



< 133 / 464 >

この作品をシェア

pagetop