社内恋愛のススメ



「よーし、飲みに行くぞ!」


部長がそう言い出したのは、金曜日の朝。

仕事に取りかかろうとしていた、その時だった。



「ぶ、部長………?」


企画部の社員一同が、恐る恐る聞き返す。


聞き返しても、聞き返さなくても、結果は多分同じこと。

部長が考えそうなことは、きっとみんな、分かってる。


張り切った様子で、部長は堂々とこう宣言した。



「今日の夜は、予定を空けておく様に。上条くんの歓迎会をやるからな!」


高らかにそう宣言し、胸を張る部長。


間違えた。

今のこの人は、企画部の部長じゃない。


酔っ払う気満々の、宴会部長様だ。



「ぶ、部長!今日はちょっと、先約があって………。」

「あ、私も。」


分かってるクセに、無駄な抵抗を試みている人が数名。

予定があると言い張る社員が、次々に手を挙げる。


本当に予定がある人間が、この中に果たして何人いるのだろうか?

謎だ。



しかし、そんなことで、部長は怯まない。


宴会部長。

ダテに、その名前で呼ばれていない。


軽く笑ってから、一気に厳しい口調で捲くし立てる。



「あーあ、薄情だなぁ………。せっかく、上条くんが戻って来たというのに。」

「………!」


言い訳を並べていた社員達が、ゴクンと唾を飲む。



「そんなのは、認めん。認めんぞ!今日は、上条くんの主任昇進を祝っての酒席だぞ!!」


厳しい口調で、部長………というより、宴会部長が一刀両断で斬る。



「まさか、祝いの席を欠席するヤツはいないよな?」


部長、気付いてる?


それ、脅しです。

完全なる、脅しです。



笑顔で、そう脅迫する部長。


まぁ、部長の言い分はごもっとも。

祝いの席を欠席するなんて、もっての他だ。


社会人としてなら。

それが分かってるから、誰も言い返せなくて黙ってしまう。



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